#人材管理
2025/11/04

人的資本経営とは?取り組むメリットや実施の流れをわかりやすく解説

組織状態の把握から分析・課題抽出までワンストップで実現

目次
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人的資本経営とは、従業員をコストではなく価値を生み出す資本として捉え、戦略的に投資・育成していく経営手法です。

近年、投資家や取引先から人材情報の開示を求められるケースが増えており、多くの企業が対応を迫られています。

本記事では、人的資本経営に取り組むメリットや具体的な実践ステップ、企業の導入事例まで解説します。人的資本経営の導入を検討している場合には、最後までご覧ください。

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人的資本経営とは

人的資本経営とは、従業員を企業の成長を支える資本として位置づけ、計画的に投資・育成していく経営アプローチを指します。従来のように人件費を削減対象とするのではなく、教育研修やキャリア支援に積極的に投資することで、企業価値の向上を目指す考え方です。

この経営手法の特徴は、経営戦略と人材戦略を連動させる点にあります。たとえば「海外市場への進出」という経営目標があれば、語学研修や異文化マネジメント教育といった人材育成施策を同時に設計していきます。

このように戦略と施策を一体化させることで、企業全体の競争力を高められる取り組みが人的資本経営です。

人的資本経営の重要性を強調した「人材版伊藤レポート」

人的資本経営が社会的に注目されるきっかけのひとつになったのが、経済産業省が2020年に発表した「人材版伊藤レポート」です。

このレポートでは、人材を「資源」ではなく「資本」として捉える視点の転換を強く求められています。具体的には、経営戦略と人材戦略を連動させるための「3つの視点(3P)」と「5つの共通要素(5F)」というフレームワークが提示され、このフレームワークにより抽象的だった人的資本経営を具体的な施策に落とし込むことが可能になりました。

このレポートの公表を契機に、日本国内でも人的資本経営への関心が急速に高まりました。日本企業が人的資本経営を本格的に取り入れるための指針となり、現在の制度設計や情報開示の枠組みにも影響を与えています。

人的資本経営と人材戦略の違い

人的資本経営と人材戦略は密接に関連していますが、その範囲と目的には違いがあります。

人材戦略は「どのように人材を育成・配置するか」という人事部門の活動計画であるのに対し、人的資本経営は「人材投資をどう企業価値向上につなげるか」という経営レベルの方針です。

具体的には、人材戦略では「次世代リーダー育成プログラムを実施する」という施策を立案します。一方、人的資本経営では「海外売上比率40%達成のために、グローバル人材を2倍に増やし、投資額を年間3億円確保する」といった形で、経営目標と人材投資を紐づけて設計します。

もう一つの大きな違いは、情報開示の視点です。人材戦略は社内向けの施策計画であることが多いのに対し、人的資本経営では投資家や取引先に向けて人材投資の成果を積極的に開示する姿勢が求められます。採用人数やスキル研修の実施率といった定量データだけでなく、それらが企業価値にどう貢献しているかを説明する責任が伴います。

人的資本経営が注目される背景

従業員を投資すべき資本と捉える人的資本経営が注目されている背景には、以下のような要素があります。

  • 多様な働き方や人材の浸透

  • 投資家への情報開示の必要性

  • 経営に対する評価への影響

  • デジタル化社会における経営戦略

これらの背景を理解することで、自社が人的資本経営に取り組む意義を明確にできます。

多様な働き方や人材の浸透

近年、パートやアルバイトなどの非正規雇用の形態で働く従業員や、日本で暮らしながら働く外国人労働者が増えています。

人材や働き方の多様化に対応するためにも、企業にはあらゆるバックグラウンドを持つ従業員一人ひとりが、能力を存分に発揮できるような経営のあり方を追求する必要が出てきました。

このように多様な働き方や人材に柔軟に対応する仕組みを構築するには、人材を戦略的に捉える人的資本経営の視点が必要です。

投資家への情報開示の必要性

人的資本経営は、投資家へ必要な情報を開示する意味合いでも注目されています。

投資家は、企業理念や経営方法などの情報から、自身が投資する企業を決定しています。

近年、直近の業績などのみではなく、従業員という無形の資産に対して企業がどのような取り組みを行っているかという点が、投資先を検討する材料として重視される傾向にあります。

投資家への情報開示という観点からも、人的資本経営に取り組み、内容を開示することは企業にとって有益と言えるでしょう。

経営に対する評価への影響

近年、SDGsを意識した持続可能な発展に向けた取り組みを行うことが、企業にも求められています。

SDGsの目標の1つには「働きがいと経済成長」が掲げられており、「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進する」とされています。

SDGsの観点からも、働く「人」に投資する人的資本経営は、自社の経営に対する評価の点で、今後さらに重視されるようになるでしょう。

(参考)外務省「SDGグローバル指標(SDG Indicators)」

▼「SDGs」についてさらに詳しく

デジタル化社会における経営戦略

デジタル化が急速に進むなかで、企業の業務の主軸が従来の「作業」から「イノベーション」や「価値の創造」にシフトしてきました。

イノベーションや価値創造には、従業員一人ひとりが自身の個性を発揮し、自由にアイデアを生み出せる環境づくりが重要です。

イノベーションや価値創造の観点からも、従業員の能力や意欲を高めるための取り組みを行う人的資本経営に注目が集まっていると考えられます。

人的資本経営に取り組むメリット

人的資本経営に取り組むことで、企業は競争力の強化と持続的な成長を実現できます。従業員への戦略的な投資は、短期的にはコストがかかるように見えても、中長期的に企業価値を高める効果をもたらします。

人的資本経営に取り組む主なメリットは、以下の3つです。

  • 生産性を向上できる

  • 企業ブランドの向上を期待できる

  • 投資家からの注目度が高まる

これらのメリットを理解することで、経営層への説明や社内での合意形成がスムーズに進みます。

生産性を向上できる

人的資本経営では従業員のスキルアップやキャリア支援に投資することで、一人ひとりの業務遂行能力が高まり、結果的に組織全体の生産性向上につながります。

従業員が自身の成長を実感できる環境は、モチベーションとエンゲージメントの向上に直結します。また、研修機会やキャリアパスが明確な企業では、従業員が主体的に業務改善に取り組むようになり、業務効率化のアイデアが現場から生まれやすくなるでしょう。

さらに、適材適所の人材配置も生産性向上に寄与します。人的資本経営では従業員のスキルや適性をデータ化して管理するため、プロジェクトに最適な人材をすばやくアサインできます。このような戦略的な人材活用により、プロジェクトの成功確率が高まり、無駄な時間やコストの削減が可能です。

企業ブランドの向上を期待できる

人材育成に積極的な企業は、求職者や取引先から「働きがいのある会社」として評価されやすくなり、企業ブランドの向上が期待できます。

実際に、転職サイトや口コミサイトでは、研修制度やキャリア支援の充実度が企業選びの重要な判断材料です。こうした情報を公開している企業には、優秀な応募者が集まりやすくなります。

特に若年層の求職者は、給与水準だけでなく「成長機会があるか」「多様な働き方を選べるか」を重視する傾向が強まっています。人的資本経営に取り組む企業は、こうした期待に応えられるため、採用競争で優位に立てるでしょう。

その結果、採用コストの削減や早期離職の防止にもつながり、長期的には採用効率の改善が期待できます。

投資家からの注目度が高まる

投資家にとって、人的資本は企業の将来性を判断する重要な指標です。財務データは過去の実績を示すものですが、人材への投資状況は未来の成長力そのものです。

人的資本経営を取り入れ、教育制度や従業員のエンゲージメントに関するデータを開示する企業は、長期的に成長できると評価されやすくなります。

実際に、海外では人的資本の情報開示を義務化する動きが進んでおり、日本企業もその流れに対応し始めています。このように積極的に情報を公開することで、資金調達の円滑化や株価の安定といったメリットの享受が可能です。

投資家は数字だけでなく、企業の姿勢や理念を重視するため、人的資本経営は投資家との信頼構築に欠かせない取り組みとなっています。

人的資本経営で企業が開示すべき情報

2023年3月期から、日本の上場企業は有価証券報告書に人的資本に関する情報を記載することが義務化されました。開示が求められるのは、以下の情報です。

分野

項目

内容

人材育成

リーダーシップ

リーダーシップの能力開発とその評価体制

育成

研修やキャリア開発プログラムについて

スキル・経験

業務に必要なスキルや実務経験の向上の取り組み

ダイバーシティ(多様性)

ダイバーシティ

多様な人材が活躍できる職場づくりをしているか

非差別

職場における待遇に公平性があるか

育児休業

育児に関する支援制度があるかどうか

健康・安全

精神的健康

メンタルヘルスケアに関する取り組みをしているか

身体的健康

健康診断といった健康を維持する制度があるか

安全

労働災害や安全衛生に関する制度があるか

労働慣行

労働慣行

公正で健全な労働環境が整っているか

児童労働/強制労働

不正な労働をさせていないか

賃金の公正性

最低賃金などの公的ルールを守っているか

福利厚生

どのような福利厚生制度があるか

組合との関係

労働組合との信頼関係が築けているか

エンゲージメント

従業員満足度

社員が仕事や企業に対して満足しているか

流動性

採用

採用に関する取り組みや実態

維持

人材の定着化に向けた施策について

後継者育成(サクセッション)

後継者の確保・維持に向けた取り組み

コンプライアンス

法令遵守

法律や社会規範、倫理観に即した経営活動ができているかどうか

これらの現状値と目標値、達成時期を明示することで、投資家は企業の人材戦略の実効性を判断できます。開示する情報は毎年更新し、進捗状況を報告することで信頼性を高められます。

人的資本経営に必要なフレームワークとは

人的資本経営を実践する際には、経済産業省の人材版伊藤レポートで示された2つのフレームワークが有効な指針となります。それが「3つの視点(3P)」と「5つの共通要素(5F)」です。

以下で、それぞれの内容を詳しく解説していきます。自社の状況に照らし合わせながら、どの視点や要素から着手すべきかを検討する際の参考にしてください。

人材戦略に必要な3つの視点(3P)

3Pとは、人材戦略を設計する際に欠かせない3つの視点を指し、経営戦略と人材戦略を結びつけるための枠組みとして機能します。3つのPは視点を意味する「Perspectives」から名付けられました。

  • 経営戦略と人材戦略の連動

  • As is-To be ギャップの定量把握

  • 企業文化への定着

1つ目は「経営戦略と人材戦略の連動」です。企業価値の持続的な向上には、経営戦略を実現する人材戦略の策定と実行が必須となります。経営戦略との連動を意識しながら、人材面の課題解決のための具体的なアクションを実行することが求められます。

2つ目は「As is-To be ギャップの定量把握」です。理想とする姿(To be)と現在の姿(As is)のギャップを数値で把握することで、経営戦略と人材戦略に連動性があるかを判断しやすくなります。

3つ目は「企業文化への定着」です。持続的な企業価値の向上につながる企業文化は、人材戦略の実行を通して醸成されていきます。そのため、経営戦略と連動した人材戦略は、策定段階から理想とする企業文化と関連性のある内容にすることが必要です。

人材戦略に必要な5つの共通要素(5F)

5Fとは、どの企業も共通して取り入れるべき人材戦略の5つの要素を示したフレームワークです。Fは、「要素」を意味する「Factors」の頭文字からきています。

3Pと併せて活用することで、より実効性の高い人材戦略を構築できます。

5Pの要素

内容

動的な人材ポートフォリオ

・現時点で必要な人材だけでなく、将来の経営戦略から逆算して人材の採用・配置・育成が必要

知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

・顧客ニーズの多様化に対応するには、企業内に多様な経験や視点を持つ人材が必要

リスキリング・学び直し

・急速に変化する顧客ニーズに応えるには、従業員の学び直しや新たな知識の習得が重要
・従業員が自律的にリスキリングを行い、企業がそれを積極的に支援する姿勢が求められる

従業員エンゲージメント

・従業員が能力を十分に発揮し、やりがいを感じるには主体的に取り組める環境の整備

時間や場所にとらわれない働き方

・さまざまな働き方を選択できるよう、業務プロセスや社内コミュニケーションのあり方、マネジメントなどの見直し

人的資本経営を実施する流れ

人的資本経営を実際に導入する際には、経営戦略と人材戦略を連動させながら、以下の流れに沿って進めていく必要があります。

  • 経営戦略と人材戦略の紐付けを行う

  • 目標と現状のギャップを可視化する

  • 目標を達成するためのKPIを設定する

  • KPIを達成するための施策を実行する

  • 施策の効果を検証する

各ステップを順番に進めることで、投資家に説明できる実効性の高い人材戦略を構築できるでしょう。

経営戦略と人材戦略の紐付けを行う

人的資本経営の第一歩は、自社の経営戦略を明確にし、それを実現するために必要な人材像を定義することです。経営戦略と切り離された人材施策では、投資対効果を測定できず、経営層の理解も得られません。

まず、3年後・5年後の事業計画を確認し、売上目標や参入市場、新規事業などの経営目標を整理しましょう。次に、事業部門の責任者や現場のマネージャーにヒアリングを行い、実際にどのような人材が不足しているかの把握が必要です。

このプロセスを通じて、「デジタル人材を100名育成する」「次世代リーダー候補を20名選抜する」といった具体的な人材戦略の方向性が見えてきます。

紐付けの結果は、経営会議で共有し、経営戦略の一部として位置づけることで、予算や権限の確保がスムーズになります。

目標と現状のギャップを可視化する

経営戦略と人材戦略を紐付けたら、次は理想と現状のギャップを可視化します。人材ポートフォリオを作成し、年齢構成・職種別人員数・スキルレベルなどを一覧化しましょう。

スキルマップを作成するのも有効な方法です。従業員一人ひとりのスキルを棚卸しし、必要なスキルと保有しているスキルを対比させることで、育成すべき領域が見えてきます。

ギャップの可視化は数値で示すことが必要で、「エンジニアが30名不足」と具体的に示すことで、次のKPI設定の精度が高まります。

目標を達成するためのKPIを設定する

可視化したギャップを埋めるために、測定可能な指標(KPI)を設定します。KPIはアウトカム指標とプロセス指標の両方を設定すると効果的です。

アウトカム指標は「デジタル人材数を3年で100名にする」といった最終的な成果を測るもので、プロセス指標は「年間研修時間を1人あたり40時間確保する」といった実行状況を測る指標です。

KPIは多すぎると管理が煩雑になるため、優先度の高いものに絞りましょう。各KPIには達成時期を明記し、定期的に進捗を報告する仕組みを作ることで、組織全体で目標達成を意識できる環境が整います。

KPIを達成するための施策を実行する

KPIが定まったら、それを達成するための具体的な施策を設計し、実行に移します。施策は 以下のように4つの領域に分けて考えると整理しやすくなります。

  • 採用強化:中途採用の強化やリファラル採用の制度化

  • 育成・研修:階層別研修や専門スキル研修の実施

  • 制度改革:人事評価制度の見直しやキャリアパスの複線化

  • 環境整備:リモートワーク制度やITツールの導入

たとえば、エンジニア不足を解消するために技術系イベントへの協賛や、既存社員へのリスキリング研修を並行して進めるといった形で、複数の施策を組み合わせることで効果が高まります。

施策の効果を検証する

施策を実行したら、定期的に効果を検証し、必要に応じて改善を行います。四半期ごとや半期ごとに設定したKPIの達成状況を確認し、目標との差異を分析しましょう。

目標を達成できていない場合は、その原因を特定する必要があります。従業員エンゲージメントサーベイを実施し、施策に対する満足度や改善要望を収集することで、制度の実効性を評価できます。

検証結果は経営層に報告し、次年度の計画に反映させましょう。うまくいった施策は継続・拡大し、効果が薄かった施策は見直しを検討します。

このように継続的な改善を重ねることで、自社に最適な人的資本経営のスタイルが確立されていきます。

人的資本経営を実施する際のポイント

人的資本経営を成功させるには、以下の4つのポイントを意識することで、効果を最大化できます。

  • 人的資本経営そのものを目的化しない

  • 経営戦略と人材戦略の関係性を重視する

  • 取り組む優先順位を決めておく

  • コストの増加を予測しておく

これらのポイントを事前に把握しておくことで多くの企業が陥りがちな失敗パターンを避け、実効性の高い取り組みにできるでしょう。

人的資本経営そのものを目的化しない

人的資本経営は、あくまで企業価値を高めるための手段であり、それ自体が目的ではありません。情報開示の義務化により、人的資本経営そのものが目的になってしまう企業も少なくありません。

たとえば、「女性管理職比率を30%にする」という数値目標を掲げても、それが経営戦略とどう結びついているのかが不明確であれば、単なる数字合わせに終わってしまいます。

本来であれば、「多様な視点を経営に取り入れることで、新市場開拓につなげる」といった戦略的な意図があるべきです。常に「この施策は企業価値向上にどう貢献するのか」と考え続けることで、経営戦略の実現に寄与する取り組みに集中できます。

従業員に対しても「なぜこの取り組みを行うのか」という目的を丁寧に説明しましょう。

経営戦略と人材戦略の関係性を重視する

人的資本経営で重視すべきは、経営戦略と人材戦略の一体性です。人材施策が経営目標と連動していなければ、投資対効果を測定できず、経営層の理解も得られないからです。

たとえば、「デジタル化を推進する」という経営戦略があるにもかかわらず、人材育成はこれまで通りの階層別研修だけを実施しているようでは、戦略と施策が噛み合っていません。

この場合、「全社員にデータリテラシー研修を実施する」「エンジニアを50名増員する」といった人材戦略を連動させる必要があります。

経営企画部門や事業部門と定期的に連携し、事業計画の変更があれば人材計画も見直すという体制を構築しましょう。

各施策のKPIは「研修投資額を○○円増やす」だけでなく、「それにより生産性が○○%向上し、売上が○○億円増加する見込み」といった形で経営成果とのつながりを明示すると説得力が高まります。

取り組む優先順位を決めておく

人的資本経営で取り組むべき施策は多岐にわたるため、すべてを一度に実行するのは現実的ではありません。自社の経営課題や現状のギャップを踏まえて、優先順位を明確にする必要があります。

優先順位を決める際の基準は、「経営戦略への影響度」と「実行の難易度」の2軸で考えると整理しやすくなります。影響度が高く、実行が比較的容易な施策から着手することで、早期に成果を出しやすくなるでしょう。

また、短期的な成果を意識することも有効です。全社展開の前に特定の部署で実施し、初期段階で小さな成功体験を作ることで、社内の理解と協力が得やすくなります。

優先順位は一度決めたら固定ではなく、事業環境の変化や効果検証結果に応じて柔軟に見直すことで、自社に最適なスタイルが確立されていきます。

コストの増加を予測しておく

人的資本経営を推進するには、研修費用・採用コスト・システム導入費など、相応の投資が必要です。事前にコストを見積もり、予算を確保しておかなければ、計画が途中で頓挫してしまうおそれがあります。研修であれば外部講師の費用や教材制作費、採用強化であれば求人広告費や人材紹介会社への手数料も考慮する必要があります。

ただし、すべてのコストが支出ではなく投資であるという視点を持つことが重要です。人材への投資は、将来的に生産性向上や離職率低下という形でリターンをもたらします。

初年度は小規模にスタートし、効果が確認できたら次年度以降に拡大していくという段階的な投資計画を示すことで、経営層の理解を得やすくなります。

人的資本経営の取り組み事例

人的資本経営を具体的に理解するためには、実際の企業事例を知ることが効果的です。ここでは、以下企業の取り組み事例を紹介します。

  • 変革に向けた強固な組織基盤を構築|セントレアグループ 中部国際空港旅客サービス株式会社

  • 「全員主役」の組織文化の醸成|ブックオフグループホールディングス株式会社

それぞれの取り組みから、人的資本経営を進める際の実践的なヒントが得られます。

変革に向けた強固な組織基盤を構築|セントレアグループ 中部国際空港旅客サービス株式会社

セントレアグループ 中部国際空港旅客サービス株式会社_導入事例

セントレアグループ 中部国際空港旅客サービス株式会社は、コロナ禍からの回復期において、インバウンド誘致の遅れにより回復が遅れている課題がありました。

2030年に向けた中部圏全体の受け入れ体制強化という目標に向けて、ハード・ソフト両面で組織体制の刷新が急がれるなか、同社はHRBrainのEX(従業員体験)サーベイを導入。組織課題や現場の声を可視化し、結果を全社員に公開してオープンな議論を促進しました。

特に注力したのは、サーベイ結果をライン長だけでなく社員本人にも開示し、自部署の課題について話し合う機会を設けることで、一人ひとりが組織改善を「自分ごと」として捉えられるようにした点です。

その結果、全社で課題解決に取り組む一体感が醸成されました。社員一人ひとりの生の声を拾い、システムを活用しながら解決策を講じたことで組織改善の成果があらわれています。

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ブックオフグループホールディングス株式会社_導入事例

ブックオフグループホールディングス株式会社は、事業多角化に伴い、人財確保・育成や各事業のフェーズに合った人事制度の構築に課題を抱えていました。従来の満足度調査では結果を把握するだけで組織改善につながらず、取り組みが全社に浸透しないという問題もありました。

そこで、従来の満足度調査から脱却するために、HRBrainのEXサーベイを導入。EXサーベイの結果を経営陣に共有して経営課題として認識できるようになることで、単なる数値目標や業務進捗などの話題から、実際の施策についての議論を深めることに成功しました。

特にキャリア入社者のスコアが低いことが判明した際には、オンボーディング施策を迅速に強化するなど、データに基づいた具体的な改善行動につなげました。

その結果、EXサーベイの結果が組織課題を話す際の「共通言語」となり、感覚的だった議論が、実際の取り組みとして行動につなげられるようになったのです。

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人的資本経営には徹底した自社の分析・可視化が重要

サービスサイト_組織診断サーベイ

人的資本経営を成功させるためには、自社の現状を正確に把握し、データとして可視化することが重要です。感覚や経験則だけで人材戦略を立てても、効果的な施策にはつながりません。

正確な情報をデータとして収集・分析するには、タレントマネジメントシステムやHRテックツールなどの活用が効率的です。

なかでも「HRBrain 組織診断サーベイ」なら、従業員の期待値と実感値のギャップを可視化でき、優先的に取り組むべき課題を特定できます。部署・雇用形態・入社年次など多角的な視点で組織状態を把握できるため、具体的な改善アクションへ迅速につなげられます。

可視化したデータは経営層・現場マネージャーと共有することで、各部署が自律的に改善に取り組みやすくなるでしょう。

人的資本経営は、継続的に分析・改善を繰り返すプロセスこそが重要です。定期的にデータを更新し、経営環境の変化に応じて戦略を見直していくことで、持続的な企業価値向上が期待できます。

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株式会社HRBrain 東本真樹
東本 真樹
  • 株式会社HRBrain コンサルティング事業部 組織・⼈事コンサルタント

2008年、デジタルマーケティングを支援する企業に入社。
企業ブランディングを活かしたマーケティング支援を経験した後、人事コンサルティング事業の立ち上げに参画。
主に300名未満の中小企業に向けた人事評価制度設計・運用支援・研修企画/実施を行う。

その後、1,000名規模の上場企業にて人事ポジションを経験し事業会社人事としての職務にも従事。

人事評価制度の運用、サーベイによる組織傾向分析、人材データベースの運用管理を経験。
現在は、HRBrainコンサルティング事業部にて組織人材コンサルタントとして活躍中。
人事評価制度の設計から定着に向けたコンサルティングまで各企業のフェーズに沿った支援を行っている。

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